いい話しのおすそわけ 「夫婦で焼いたホットケーキ」
デイケアセンターに行かない日、
主人がポツリと
「久しぶりにホットケーキば食おごたるなあ」
ともらした。
私は
「作ってみよかなあ。
加勢してくれるなら」
と言った。
ホットケーキのもとを出して、
卵と牛乳を入れ、
ざっくり混ぜた。
車椅子に座布団を2枚敷かないと、
フライパンの中は見えない。
主人に手伝ってもらって、
フライパンに流し込んだ。
表面に穴がポツポツとでき始め、
2分くらいして裏返ししたら、
薄茶色に焼けていた。
そしてやっと1枚目ができた。
じっと見ていた主人、
「2枚目はおれが焼く」
と言って、
フライパンに流し込んだ。
6年ぶりに作ったホットケーキ。
主人との合作は初めてだからと仏壇に供えた。
濃いお茶を入れ、
食べたホットケーキはとてもおいしかった。
ポトリと落ちた涙。
主人に見えないようにふく。
今は買えばどこにでもあるホットケーキだが、
手作りの味は格別。
また作ってみようと思っている。
「うまかったなあ」
と主人が言った。
うれしかった。
やればできると、
自身がついた。
私は
「また、
ホットケーキのもとを買いに行こう」
と主人に言った。
もう1枚作って、
息子の嫁さんに持っていったらと、
後で思った。
四苦八苦して作ったホットケーキだった。
森 慶子さん(85歳)
熊本日日新聞 2011.4.5 「読者のひろば」より転載
日々の生活の中にも喜びを見出した老夫婦の温かいひとコマが
読者の気持ちまで温めてくれます
幸せはいつも私たちのすぐそばにあるのですね
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