三つの鎮魂歌

kenkouarisa

2012年06月23日 10:00



ガツンと溝に落ち、装甲車の鉄の座席がひっくり返るのではないかと思ったとき、山川千秋さんが横からシッカリ両肩を押さえてくれた。

「大丈夫です」と振り向いたとき、山川さんの目に涙が溢れていた。

国境の二重になった鉄条網を押し倒しイスラエルからレバノンへと分け入っていく戦車群の後ろからプレス用の装甲車に乗って私は無我夢中でカメラを回していた。

反対側の様子を見る余裕など私にはまるでなかった。

涙する山川さんにハッとしたときその窓越しにレバノンの子供たちが旗を振りながらガレキの中を戦車を追って走っているのが見えた。

イスラエルの国旗だった。




「実ちゃん、あの子供たちは二つも三つもの国旗を自分のベッドの下にかくしているのだろう。戦車が来るとその印を見て旗を選んで駆けてくる。そうして自分の村と生命を守るこの子供たち・・・実ちゃん戦争っていったい・・・今僕たちはいったい何をしているんだ」

山川さんの涙は止まらなかった。



「実ちゃん、ジャーナリストは只の状況伝達者ではいけないね、その人たちの歴史と心情を伝えられるようなジャーナリストになりたいね」

山川さん、貴方は、私にとって今でもこれからも,良き師であり、よき友であります。

                                                                    河井 実之助                              山川千秋・ガンとの闘い180日  死は「終り」ではない より







FNNニュースキャスターであった山川千秋さんが中東を取材した時の体験を同行の仲間が伝えた。山川さんは88年食道がんで55歳で逝去

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