2009年09月03日

ある胸打たれた話 ①

ある胸打たれた話 ①


 北陸での話。
上の男の子が生まれて間もなく高熱を発し、
かわいそうに精神遅滞になってしまった。
弟が生まれて、口がきけるようになった2歳の時であった。
ある日、弟がお兄ちゃんに向かって、
「お兄ちゃんなんか、バカじゃないか」と言った。

 母親はこの弟をその場で叱ろうと思った。
しかし、このお母さんは、まあ、待ってみよう、
この弟は多分私たち夫婦がいなくなったあとには、もしかすると、
このお兄ちゃんの面倒をみてやらなくてはならないようになるかも知れない。
その時になって、やさしくしてあげてねと言っても手遅れである。
いま、この小さいうちに、何とかしてお兄ちゃんをいたわる心を育ててやりたいと、そう思った。

その日から、お母さんは、弟がお兄ちゃんに言った言葉を、毎日毎日、ノートにつけはじめた。
1年たち、2年の歳月が流れた。
しかし、相変わらず弟の口から出るのは、
お兄ちゃんのバカ、お兄ちゃんはバカ、だけであった。
お母さんはなんべんもあきらめようと思った。

 弟が幼稚園に入った。
七夕の日であった。
どうしたわけか、近所のこどもや親戚の人がたくさん家に集まった。
あまり人が来たので、お兄ちゃんは少し興奮したらしかった。
そこにいる人たちの頭を、ポンポンとぶちはじめた。
やめなさいと言いたいのだが、こういうかわいそうな子どもなので、みな言い出しかねていた。

 そのときである。隣の部屋から、小さい弟がパッと飛び出してきた。
そして、お兄ちゃんの体にすがりながら叫んだ。
「お兄ちゃん、ぶつならボクだけぶってッ。ボクは痛いっていわないからッ。
ね、ね、お願い、お兄ちゃん、ボクだけぶってッ」

 それはお母さんが長い年月の間、待ちに待っていた言葉であった。
その晩、お母さんはあふれる涙を押えながら、
いつものノートにぎっしりと一つの言葉を書いた。
「坊や、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、
ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこには、ありがとうしかなかった。
 人間がほんとうに感動した時とはこんなものである。

(次回につづく)
  出典は最後に記述


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Posted by kenkouarisa at 19:48│Comments(0)菅 健一です
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